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大阪地方裁判所 昭和25年(ワ)2857号 判決 1960年1月30日

原告 尼崎鋼材株式会社

被告 国

訴訟代理人 今井文雄 外五名

主文

被告は原告に対し金五、八八九、四〇〇円及びこれに対する昭和二五年一〇月二〇日以降右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分しその四を原告の負担としその余を被告の負担とする。

この判決は第一項に限り原告において金二、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金一一七、一四一、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その陳述した主張の要領は、

第一、請求原因

一、原告主張の事実関係

(一)  別紙目録記載の物件(以下本件物件という。)はもと訴外浪速船渠株式会社(以下浪速船渠という。)の所有で大阪市西成区加賀屋町一一番地所在の同社工場内にあつたものであるが、昭和二四年一一月八日同年度源泉徴収の所得税三、四八九、八〇〇円の滞納により大阪国税局管内西税務署収税官吏の差押を受け、昭和二五年一月一六日公売に付され、訴外入江武雄が金三、五〇〇、〇〇〇円を以て落札し、同日右署長から入江に対し浪速船渠をして本件物件を同人に引渡すべきことを命じた売却決定通知書が交付された。

(二)  而して入江は昭和二五年一月二一日原告に対し本件物件を代金四、二〇〇、〇〇〇円、その支払方法として同月二三日金一、〇〇〇、〇〇〇円、同月二六日検品受渡と共に金三、二〇〇、〇〇〇円を支払うとの約定の下に売却した。そして原告は約旨に従い入江に対し同月二三日金一、〇〇〇、〇〇〇円を支払つた外、同月二四日好意的に金五〇〇、〇〇〇円を支払い、同日原告代表者木村嘉弘は入江の代理人富岡芳勝、西税務署事務官田中和一外三名と共に浪速船渠工場に赴き、同社倉庫課係長に面接し、まず入江において本件物件を検品の上浪速船渠から占有改定の方法によつて引渡を受け、しかる後原告は入江から浪速船渠を占有代理人として指図による引渡を受けた。

(三)  そしてその後原告は同月二六日入江に対し金二、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、同日午前九時頃入江は西税務署において同署歳入歳出外出納官吏である同署事務官佐藤豊光に対し本件公売代金を完納した。よつて直ちに原告代表者木村嘉弘は富岡芳勝、右大蔵事務官佐藤豊光及び本件物件の転売予定先である訴外日本鉄鋼興業株式会社(以下日本鉄興という。)取締役沢田義雄外三名と共に浪速船渠工場に至り、同社戎専務、小笠原取締役、梶原監査役、大倉政実倉庫課長らに面接し、まず佐藤事務官から右浪速船渠関係者に対し本件物件は入江の落札並びに代金完納によつて同人の所有に帰し更に同人を経て原告がその所有権を取得した旨通知し、次いで入江が本件物件を占有改定の方法によつて引渡を受け、しかる後原告は入江から浪速船渠を占有代理人として指図による引渡を受け、更に原告は浪速船渠側と本件物件の搬出について交渉した結果、翌二七日原告において引取搬出をなす旨定めた。よつて原告は同月二四日仮に然らずとするも同月二六日に本件物件の引渡を受けたものである。

(四)  ところが大阪国税局大蔵事務官松ケ崎浩、同稲葉三之助の両名は同宇野義明の指揮により昭和二五年一月二六日午後原告らが引揚げた後右浪速船渠工場に来り同所において、同社に対する法人税滞納金一五、八三七、八六六円のため本件物件及びその他の同社所有の工場内機械原料等を差押えた。

(五)  原告代表者木村嘉弘は翌二七日安田正一、晴武一、古家計理士、日本鉄興社員二名、人夫数十名と共に取敢えずトラック八台を以て本件物件引取に浪速船渠工場に赴いたところ、同社は門を閉し搬出を拒むのでその理由を質した結果、右一月二六日付差押の事実を知つた。よつて原告代表者らは直ちに西税務署に赴き、同署内大阪国税局派遣係長宇野義明に面接、即刻差押解除をなすよう要求したのであるが、同人は浪速船渠の買戻の斡旋をなすのみであるので原告はかかる筋違いの斡旋には応ずる要なしと認めこれを拒絶した。しかし原告としてはこの件に関しては急速な解決を計る必要があるので止むなく右斡旋に応ずることとし、原告側は安田正一、晴武一、古家計理士を、浪速船渠側は梶原、小笠原、戎三重役を各代表とし、入江代理人富岡芳勝立会の下に同月三〇日、翌二月一日大阪市南区戎橋南詰料亭オメガにおいて、同月二日浪速船渠本社においてそれぞれ右買戻の交渉をなしたが結局同月四日に至り右交渉は決裂した。

(六)  よつて原告は昭和二五年二月二三日国税徴収法第一四条に基き大阪国税局長に対し財産取戻請求をなしたのであるが、同局長は同年七月一一日先に西税務署収税官吏のなした公売処分は無効であるとの理由で原告の右請求を棄却した。

(七)  その後大阪国税局大蔵事務官今川忠一は昭和二五年七月一七日及び同年八月一五日の二回に亘り、同年一月二六日付差押の確認的意味において改めて本件物件その他の財産の差押をなすと共に、昭和二四年一一月八日及び昭和二五年一月二六日付各差押を解除した。

(八)  次いで西税務署長二位泰は昭和二五年八月三一日、右差押物件の大部分を机上売買という最も簡易な方法で浪速船渠代表取締役熊谷八郎個人に金一一、七四六、一四六円で競落させ、その余の物件をその頃同人に任意売却の上引渡した。

(九)  ところで原告は昭和二五年一月二一日入江から本件物件を買受けるや日本鉄興に対し、原告において本件物件を浪速船渠工場から搬出しその直接占有を始めるに至つたときこれを転売すべく交渉していたが、当時既に鉄鋼の統制撤廃の気運が濃厚で景気も上昇気味であり、統制が撤廃されると本件物件のようなものは価格の急騰が予想され将来の価格については予測を許さない状勢にあつたため、代金は当該時期に統制があればその統制による公定価格、統制撤廃後であればその時の市場価格を以て転売することを約した。しかるに同月二六日大阪国税局収税官吏の差押によつて原告の本件物件の引取が不能となつたので原告としては前記(六)のとおり国税徴収法に基く財産取戻請求をなす等種々手を尽すと共に、同年四月末日までには現実の引取も可能と考え転売の期日を同日と定めた。しかしながら右四月末日に至るも右差押に関する原告と国税局間の紛争は解決しないので、原告は日本鉄興とも相談の上転売の期日を昭和二六年四月末日に延期した。

(一〇)  而して本件物件の価格は、西税務署長が本件物件を熊谷八郎に公売又は売却した昭和二五年八月三一日当時においては別表(一)記載のとおりでその合計は金五五、八一九、〇〇〇円であり、原告がこれを日本鉄興に転売すべく予定していた頃である昭和二六年四月一四日当時においては別表(二)記載のとおりでその合計は金一一七、一四一、〇〇〇円であり、昭和三二年七月四日当時においては別表(三)記載のとおりでその合計は金一三〇、五九一、〇〇〇円である。

二、原告の本件物件の所有権取得

(一)  国税滞納処分により滞納者の財者を入札の方法で公売に付する場合その財産の所有権は収税官吏が開札して最高入札者の何人なるかを知りこれを落札者とし財産売却の決定をなし右決定通知書が落札者に交付されると共にその所有権は落札者に移転するものと解すべきである。そうすると前記一の(一)のとおり入江は昭和二五年一月一六日西税務署収税官吏のなした本件物件の公売に際し、同日これを落札し西税務署長から売却決定通知書の交付を受けたものであるから、入江は同日本件物件の所有権を取得した。ところで原告は前記一の(二)のとおり同年一月一二日入江から本件物件を買受けたものであるから、原告は同日本件物件の所有権を取得した。

(二)  仮に公売処分による所有権移転は売却決定によるものではなく公売代金の完納と引換に公売物件の引渡を受けたときであると解しても、前記一の(三)のとおり入江は遅くとも昭和二五年一月二六日午前九時頃本件公売代金を西税務署係官に完納し、直ちに本件物件所在地においてその引渡を受け、原告は引続いて本件物件の引渡を受けたものであるから、原告は同日同時刻以降本件物件の所有者となつたものである。

三、被告の公務員の不法行為

大阪国税局大蔵事務官宇野義明、同松ケ崎浩、同稲葉三之助の前記一の(四)の所為、同今川忠一の前記一の(七)の所為、西税務署長二位泰の前記一の(八)の所為はいずれも同人らにおいて本件物件が公売処分によつて既に原告の所有に帰していることを知りながら未だ浪速船渠工場に所在していることを奇貨としてなされたものであり、仮に同人らにおいて本件物件が原告の所有に帰していることを知らなかつたとしても、同人らにおいてその職務上課せられた通常の注意義務を尽したならば当然右事実を知り得たものであるに拘らずこれを怠り漫然浪速船渠の所有物としてなしたものであるから、右はいずれも故意もしくは過失によつて原告所有の本件物件に対し滞納処分をなし、以て原告の右所有権を侵害した不法行為であるということができる。

四、右不法行為に対する被告の責任

ところで右収税官吏らはいずれも被告の公権力の行使に当る公務員であり、同人らはその職務を行うについて故意又は過失によつて他人の権利を侵害したものに外ならないから、被告は国家賠償法第一条第一項に則り原告に対し右不法行為によつて原告に対して加えた損害を賠償する責任を負担するものといわねばならない。

五、被告の賠償すべき損害額

(一)  物の給付を請求し得る債権者が、本来の給付に併せてその執行不能のときの履行に代わる損害賠償を請求した場合における右損害賠償の額は、その物の最終口頭弁論期日当時における価値を標準として定むべきものとされている。ところで原告は当初被告に対し本件物件の引渡を求め、もしその執行が不能のときは履行に代え物件の価格相当額の支払を求めていたのであるが、本件物件は前記一の(八)のとおり公売処分の結果第三者が競落しその占有を始めたものであるから、被告に対し右物件の引渡を求めることは不能となつた。そこで原告に対し本件物件引渡の履行に代え損害賠償の請求をするものであるが、右損害賠償額は本件最終口頭弁論期日における本件物件の時価相当額であるべきところ、原告に判明している限度において本件最終口頭弁論期日に近接している本件物件の時価は、昭和三二年七月四日現在において前記一の(一〇)のとおり合計金一三〇、五九一、〇〇〇円であり、本件最終口頭弁論期日には更に右時価は高騰しているものであるから、被告は原告に対し内金として右金一三〇、五九一、〇〇〇円を支払うべきである。

(二)  仮に右請求が理由ないとしても、不法行為によつて財産上の損害を受けた者は現実に生じた積極的損害の賠償を請求することができる外に、なおその不法行為がなかつたならば受けることができた利益の喪失に対する損害をも請求することができる。従つて不法行為により滅失毀損した物が後に価格騰貴し被害者がこれによりて得べかりし利益を喪失したときはなおこれに基く消極的損害をも請求し得るものであるが、それには被害者において不法行為がなかつたならばその騰貴した価格を以て転売その他の処分をなしその価格に相当する利益を確実に取得したであろう特別の事情があつてその事情が不法行為当時予見し又は予見し得べかりし場合であることが必要である。ところで本件においては前記一の(九)のとおり原告は収税官吏の昭和二五年八月三一日付の不法行為がなかつたならば本件物件を昭和二六年四月末日日本鉄興に転売し且つ右日時の時価に相当する金員を確実に取得したであらう事情にあり、不法行為当時右事情を予見し又は予見し得たであらうものであるから、被告は原告に対し右昭和二六年四月末日における本件物件の時価相当額として前記一の(一〇)のとおり金一一七、一四一、〇〇〇円の支払義務があるものである。

(三)  又仮に右請求が理由ないとしても、不法行為によつて所有権を滅失せしめられた者は損害賠償として右滅失当時における所有物の交換価格を請求し得るものである。ところで本件において原告の本件物件に対する所有権を滅失せしめるに至つた不法行為は昭和二五年八月三一日頃なるところ、前記一の(一〇)によると右日時頃における本件物件の時価は合計金五五、八一九、〇〇〇円であるから、被告は原告に対し少くとも右金員の支払義務は免れることができない。

六、原告の被告に対する請求

よつて原告は被告に対し右五の(一)(二)の金員の範囲内で金一一七、一四一、〇〇〇円(もしそれが認められないならば右五の(三)の金員をその内金として)及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求めるため本訴請求に及ぶ。

第二、原告の本請求は不当な請求の変更によるものであるとの被告の主張について。

原告は当初被告に対し、原告が本件物件の所有者なることの確認とその引渡を求め、次いで予備的に右所有権に基く引渡の強制執行が不能な場合所有権侵害の不法行為として損害賠償の請求をなしたものであつて、いかなる段階においても債務不履行に基く損害賠償の請求をしたことはない。そうすると右損害賠償の請求が債務不履行を原因とするものから不法行為を原因とするものに変更されたとの前提に立つて、右変更を以て請求の基礎に変更があるとする被告の主張は理由がない。なお本件物件は後日収税官吏の不法行為によつて第三者の競落所有するところとなり、原告において被告に対しその引渡を求めることができない状態となつたので、止むなく右不無行為による損害賠償のみを請求するに至つたものである。

第三、収税官吏が本件物件につきなした昭和二四年一一月八日付差押、昭和二丑年一月一六日付公売が無効であるとの被告の主張について。

一、右各処分はいずれも有効である。

(一)  本件物件は大部分統制物資でこれらのものについては公売処分は許されないという主張について。

(イ) 本件物件中、艤装品、鋳造品、補キ、計器、弁コツク、電気用品、パツキング、雑品は元来非統制物資であり、鉄釘類、リベツト、ボールト、燃料、非鉄金属はいずれももと統制物資であつたが、鉄釘類、リベツト、ボールトは昭和二三年七月二三日通産省令第一九号により、燃料は昭和二四年九月一六日同省令第四七号第四八号により、非鉄金属は同月二九日総理府通産省他関係各省連名令第五号によりいずれも統制を解除され、右公売当時はいずれも統制外物資であつたものであり、その他の物件は本件公売当時統制物資であつたが、鋼板、型鋼の大部分は相当量の穴をあけ加工してありこれらは再生用屑鉄と称し、価格統制はあつたが配給統制はなく、いわゆる統制物資ではなかつたものであるから、右各物件についての被告の主張は理由がない。

(ロ) 仮に本件物件の大部分が被告主張のように統制物資であつたとしても、終戦後企業許可令の廃止に伴い、国が物件を公売する場合には統制の適用はない。被告主張の昭和二四年三月一六日付蔵税第八六一号主税局通達なるものは単なる行政上の訓令でこれを以て直ちに国民の権利義務を拘束することはできない。却つてこのようなことが訓令によつて示されているということは、国の公売に関しては指定生産資材割当規則によることなく誰でも自由にこれを競落札し得るものと解することができる。

(二)  右公売処分が暴利又は統制違反行為を誘発する虞があり民法第九〇条に照らし無効であるとする点について。

西税務署長は昭和二五年八月三一日本件物件を含む多くの物件を金一一、七四六、一四六円で熊谷八郎に競落させている。ところでその頃本件物件は市場価格が暴騰していた頃で、特に同年七月統制撤廃後はまさしく天井知らずの状態であつた。しかるに右税務署長は本件物件を熊谷に対し、入江の落札価格の僅か三倍程度で競落を許しているのである。これと比較するとき入江の落札価格は決して不当なものではなく、各種出費を要する公売物件については当時この程度の価格でなければ転売した場合採算がとれなかつたもので、決して暴利行為を誘発する虞のあるものではない。又右公売処分が統制違反を誘発する虞があるという点については原告はその理由を推測理解することができない。

(三)  昭和二四年一一月八日付差押が管轄区域外の収税官吏によつてなされたもので無効であるとの点について。

元来行政機関の管轄区域外の行為が無効とされる場合とはその行政行為が相対する当事者間の利害の調整を目的とし又は利害関係人の権利、利益を保護することを目的として定められている場合において、その管轄を誤ることによつてその行政行為に重大明白な瑕疵を生ずるような場合、例えば管轄区域外において営業免許をなした場合とか、管轄区域外の国有地を民有地に編入する処分をした場合とかに限らるべきであつて、本件管轄のように単なる行政上の便宜を主たる目的として定められているものに過ぎないときはこれに違背したからといつて重大な瑕疵とはいえず、又浪速船渠の管轄税務署収税官吏が同社に対する滞納処分として管轄外所在の同社工場内の本件物件を差押えたとしても明白な瑕疵とはいえないからいずれにしても無効となるものではない。

二、仮に右差押及び公売処分が被告主張の理由で瑕疵ありとしても、右は取消し得べきものに止り無効ではない。

三、又仮に右処分が無効であるとしても、被告はその公務員が過失によつて犯した行政処分の手続上の瑕疵を理由に当該行政処分が当事者間に異議なく終了した後においてその無効を主張するものに外ならない。しかしながら何人も自己の過失を主張して相手方の権利の取得を妨げ得ないことは法律上の原則であるから、かかる主張が許されないことは明らかであるが、なお本件のように右行政処分によつて権利を取得した第三者がある場合においてかかる主張をなすことは国民の基本的人権を侵害する憲法違反の行為ともいうべきものであつて到底許さるべきではない。

第四、原告が入江から本件物件を譲受けた行為が無効であるとする被告主張について。

一、本件物件は前記第三の一の(一)の(イ)のとおり棒鋼、鋼管、ワイヤロープ、塗料、木材以外の物件は当時統制物資でなかつたものであるから、いわゆる非統制物資については被告の主張は失当である。

二、而して右棒鋼、鋼管、ワイヤロープ、塗料、木材及び鋼板、型鋼の全部が統制物資であつたとしても、右物件を譲受けた行為は臨時物資需給調整法、指定生産資材割当規則に違反するものではなく従つて何ら無効となるものではない。そこでまず指定生産資材が同割当規則によつていかなる方法で売買譲渡されていたかについて考察するに、右資材の最終需要家はその必要に応じ所轄官庁に対し資材の割当方を申請すると、同官庁は経済安定本部の物動計画に従い必要と認められる量の割当証明書を発行しこれを右最終需要家に交付する。右需要家はその交付を受けた割当証明書を同規則第二五条所定の登録販売業者に託して資材購入を依頼する。すると右登録販売業者は通常同規則第一条第二項所定の普通販売業者をして右割当証明書の記載するところに従いこれが購入に当らせる。そして登録販売業者は普通販売業者を介し右割当証明書と引換に資材を購入し最終需要家に引渡すという順序となり、もし最終需要家が直接割当証明書を普通販売業者の許に持参して購入を委託した場合においては、普通販売業者は関連ある登録販売業者に移管し必ず登録販売業者を通ずることとなつていたのである。元来普通販売業者といえども指定生産資材割当規則第一条第二項に則り自己の名及び計算において指定生産資材の販売を業としてなし得る者であるが、更に同規則第二五条において「指定生産資材は商工大臣又は農林大臣に申請しその登録を受けた者以外の者は何人も当該指定生産資材の販売を業として営んではならない。」と規定されていたところから普通販売業者は指定生産資材の売買及び割当証明書の授受は右登録販売業者を通じてなされていたのである。従つてもし普通販売業者が指定生産資材を購入するに当り登録販売業者をして最終需要家割当証明書を用意させた上行い、右購入後登録販売業者に右資材を引渡すと同時に登録販売業者から相手方に対し割当証明書を交付したとすれば、右購入行為は右割当規則に照らし何らこれに違反するものではないと解されていたのである。そこで本件についてみるに原告は普通販売業者であるが、本件物件中前記統制物資を購入するに当つては購入後直ちに引渡すべき登録販売業者である日本鉄興に割当証明書を準備させ、鋼板、型鋼、棒鋼、鋼管については既に現実に右証明書を入手し、その余の統制物資についてはその入手の方途を講じて、それぞれ準備させていたものである。従つて原告が右統制物資を譲受けた行為は指定生産資材割当規則に違反するものではなく、無効となるものでない。

第五、昭和二四年一一月八日付差押、昭和二五年一月一六日付公売、原告の本件物件譲受行為がもし無効である場合の仮定的主張

一、仮に昭和二四年一一月八日付差押、昭和二五年一月一六日付公売及び原告が同月二一日入江から本件物件を譲受けた行為がいずれも無効であるとしても、原告は前記第一の一の(二)及び(三)のとおり同月二四日、そうでなければ二六日入江からこれが引渡を受けて、平穏、公然、善意、無過失にその占有を開始したものであるから、原告は右日時において本件物件を即時取得した。

二、仮に原告が右占有を始めたとき、本件物件の譲受が指定生産資材割当規則に違反するものであることを認識するにつき過失があつたとしても、臨時物資需給調整法に基く統制は昭和二五年七月一日廃止されたため同日以降の原告の占有は無過失となつたものであるから、原告は同日平穏、公然、善意、無過失にその占有を始めたものというべく原告は同日本件物件を即時取得したというのであつて、

証拠として、甲第一号証の一ないし三、同第二号証、同第三号証の一ないし三、同第四号証の一、二、同第五号証の一、二、同第六号証の一ないし三、同第七号証、同第八号証の一ないし三を提出し、証人富岡芳勝、同安田正一、同佐藤豊光、同沢田義雄、同中谷好太郎の各証言及び原告代表者本人訊問の結果を援用し、乙第一号証、同第二号証の一、二、同第三ないし第六号証の成立を認め、同第七号証は不知、同第八号証は官署作成部分のみ成立を認め、他は不知と述べた。

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、その陳述した答弁及び主張の要領は、

第一、原告の請求の変更の不当

原告は本件訴状において、被告に対し「原告が本件物件の所有者なることの確認とその引渡」を求め、昭和二七年五月一六日付訴状訂正申立書において「もし本件物件を引渡すことができないときは金四二〇万円(この金額は昭和二八年八月二九日付請求の趣旨拡張申立書により金一一七、一四一、〇〇〇円に拡張)並びに本訴状送達の翌日から右金員支払済に至るまで年六分(昭和二九年八月二六日付訴状訂正申立書により年五分に減縮)の割合による金員支払」を求めた。ところで右強制執行不能の場合のいわゆる代償請求はその性質が債務不履行による損害賠償たることはいうまでもない。しかるに原告は昭和二八年五月二〇日付準備書面において右金員の請求は不法行為に基くものであると主張している。そうすると原告の右不法行為に基く損害賠償の請求は、従前の債務不履行による代償請求を変更したものであるところ、右変更は請求の基礎に変更あるものに外ならないから許されないものというべきである。

第二、変更後の請求に対する答弁及び主張

一、原告主張事実に対する答弁

(イ)  原告主張第一の一の一の事実中、西税務署長から入江に対し落札と同時に浪速船渠をして本件物件を入江に引渡すべきことを命じた売却決定通知書が交付されたとの点は争うが、その余は認める。

(ロ)  右(二)の事実は争う。昭和二五年一月二四日原告代表者らが浪速船渠に赴いた際には単に本件物件の点検をなしたのみである。

(ハ)  右(三)の事実中、昭和二五年一月二六日入江が西税務署長において同署事務官に対し本件公売代金を完納した点は認めるが、右納入の時刻及びその余の事実は争う。特に入江が昭和二五年一月二六日浪速船渠から本件物件の引渡を受け、原告が入江からその引渡を受けたとの点は否認する。入江から浪速船渠に対し売却決定通知書が交付されていないので本件物件の引渡があるべき筈がない。入江が右公売代金を納入したときは既に同日付第二の差押がなされており同人に本件物件の引渡はなし得なかつたものである。

(ニ)  右(四)の事実中、大阪国税局収税官吏松ケ崎浩、同稲葉三之助の両名が昭和二五年一月二六日浪速船渠工場において同社に対する法人税滞納金のため本件物件その他の財産を差押えた点は認めるが、その余はすべて争う。特に右差押が入江の公売代金納入後になされたとの点は否認する。右差押は右公売代金納入前になされたものである。

(ホ)  右(五)の事実中、昭和二五年一月二七日原告代表者らが人夫数十名と共にトラック八台を以て本件物件引取に浪速船渠工場に赴いたところ、同社は門を閉じ搬出を拒んだため、大阪国税局収税官吏の前日付差押を知つたので直ちに西税務署に赴き同署内大阪国税局派遣宇野係長に面接し即刻右差押の解除を求めた点は認めるが、宇野係長が買戻の斡旋をしたとの点は否認する。その余の点は知らない。

(ヘ)  右(六)の事実は認める。但し財産取戻請求の日は昭和二五年四月一〇日である。

(ト)  右(七)の事実中、昭和二五年七月一七日大阪国税局収税官吏今川忠一は同年一月二六日付差押を解除すると其に同年七月一七日及び同年八月一五日の二回に亘り本件物件その他の財産の差押をなした点は認めるが、その余は争う。なお昭和二四年一一月八日付差押及び昭和二五年一月一六日付公売処分は西税務署長によつて同年七月一〇日無効確認の宣言的意味において取消されている。又昭和二五年一月二六日付差押処分が解除されたのは差押調書上差押物件について明確を欠く点があつたからである。

(チ)  右(八)の事実中、西税務署長が昭和二五年八月三一日本件物件その他を公売に付し浪速船渠代表取締役熊谷八郎個人に金一一、七四六、一四六円で競落させた点は認めるが、その余は争う。なお右熊谷は公売代金を同年九月二九日西税務署に完納した。

(リ)  右(九)の事実は知らない。

(ヌ)  右(一〇)の事実も知らない。

二、原告が本件物件の所有権を取得したとの原告主張について。

(一)  滞納処分により有体動産を公売する場合においては、収税官吏の売却決定があり右決定通知書が落札者に交付されることによつてその所有権が落札者に移転するものではない。売却決定と同時に指定された代金納入期日にその公売代金を完納しそれと引換に公売物件の引渡がなされこの時に初めて落札者に所有権の移転があるのである(従つて右通知書に滞納者に対し公売物件を落札者に引渡すべき旨の記載があるとしても、右は落札者が公売代金を完納した場合同人に公売物件を引渡せという趣旨に外ならない)。そしてこの点に関しては金銭債権に基き有体動産について強制執行をなす場合と何ら異るところはない(国税徴収法施行規則第二七条、民事訴訟法第五七七条第二項、第三項前段)。そうすると本件においても入江が昭和二五年一月一六日西税務署収税官吏のなした本件物件の公売に際し同日これを落札し西税務署長から売却決定通知書の交付を受けたとしても、同日公売代金を納入したものでないことは原告も自認するところであるから同日入江が本件物件の所有権を取得するいわれはない。従つて仮に原告が昭和二五年一月二一日入江と本件物件の売買契約を締結したとしても同日右物件の所有権を取得すべき道理はない。

(二)  入江は昭和二五年一月二六日本件公売代金を西税務署係官に完納したが、前記第二の一の(ハ)のとおりその後入江において本件物件の引渡を受けたものではないから、入江は同日本件物件の所有権を取得したものではない。そうすると仮に原告が入江から本件物件の譲渡を受ける旨の契約を締結していたとしても、同日右物件の所有権を取得し得るものではない。

三、原告主張の、被告の公務員の不法行為について

大阪国税局収税官吏宇野義明、同松ケ崎浩、同稲葉三之助の原告主張の第一の一の(四)の所為、同今川忠一の右(七)の所為、西税務署長二位泰の右(八)の所為について仮に何らかの瑕疵があるとしても、被告主張の右第二の二のとおり原告は未だ本件物件の所有権を取得していないので原告に対して不法行偽となるものではない。

第三、被告の仮定的主張

一、仮に有体動産の公売においては収税官吏の売却決定があり右決定通知書が落札者に交付されることによつてその所有権が落札者に移転するものとしても昭和二五年一月一六日付公売処分をなした西税務署長は昭和二四年一一月八日付差押及び昭和二五年一月一六日付公売は重要な法規ないし例規違反があつて無効であることを発見したので同年七月一〇日書面を以て浪速船渠及び入江に対し右公売及び差押が無効の行政処分であることを宣言する意味においてこれを取消した(そして西税務署長は昭和二五年一月二六日入江から公売代金として受領した金三、五〇〇、〇〇〇円は同人に返還すべきところ、浪速船渠が入江に対し別個に金四、五〇〇、〇〇〇円の債権を有していたので、国税徴収法第二三条の一に則り入江を第三債務者として右四、五〇〇、〇〇〇円の債権を差押え、この債権の取立として、入江から、同人が被告から返還を受くべき公売代金還付金の処分承諾を受け、右金額を以て浪速船渠の滞納税金の一部に充当した)。従つて入江は右公売処分によつて本件物件の所有権を取得することはできず、又原告も入江からその所有権を取得することはできない。而して右差押及び公売処分を無効であるとする理由は次のとおりである。

(一)  本件物件中、鋼板、型鋼、棒鋼、鋼管、ワイヤロープ、木材、塗料は当時指定生産資材割当規則第一条による指定生産資材(いわゆる統制物資)であつて、右物件の譲渡は臨時物資需給調整法第一条、指定生産資材割当規第一条、第八条、第九条に則つてなされねばならず、右規則に違反した譲渡行為は無効とされ、右統制物資を国税滞納処分により差押公売する場合においては、右法規の趣旨に鑑み、昭和二四年三月一六日付蔵税第八六一号主税局通達によつて統制物資の種類に従つて各公団に随意契約を以て買取らせねばならず、本件物件中の統制物資については産業復興公団に買取らせねばならなかつたのであるが、本件においてはこれを一般非統制物資と共に公売処分に付したものであるから、右公売処分は前記統制法規及び例規に違反した無効の処分といわねばならない。

(二)  又右公売は落札者或いは転得者の暴利ないし統制違反行為を誘発し社会的悪影響も計り知れないものであるから、民法第九〇条に則り無効というべきである。

(三)  又昭和二四年一一月八日付差押当時施行されていた国税徴収法施行規則第一四条によると差押うべき財産が管轄区域外に在るときは収税官吏はその財産所在地の収税官吏に滞納処分の引継をなすべき旨規定され、各税務署に所属する収税官吏は当該所属税務署の管轄区域内においてのみ滞納処分をなす職務権限を有していたものに過ぎないから、もし収税官吏が管轄区域外において滞納処分をなしたときは右は権限なき者によつてなされた行政処分に外ならず無効というべきところ、本件右差押処分は西税務署収税官吏がその管轄区域外である西成区所在の浪速船渠工場において同工場内物件につきなしたものであるから、右差押処分は固よりこれに基く公売処分も又無効というべきである。

二、仮に昭和二四年一一月八日付差押及び昭和二五年一月一六日付公売処分が無効でなく、入江が同日本件物件の所有権を取得したとしても、入江が同月二一日原告に対し本件物件を売却した行為は、右物件の大部分である鋼板、型鋼、棒鋼、鋼管、ワイヤロープ、木材、塗料等が指定生産資材割当規則第一条によるいわゆる指定生産資材即ち統制物資であるところから、右物件を含む本件物件の譲渡は臨時物資需給調整法第一条、指定生産資材割当規則第一条、第八条、第九条に則り指定生産資材割当証明書と引換になされねばならないのに、これなくしてなされたものであるから右法規に照らし無効である。従つて原告は本件物件につき所有権を取得するものではない。

三、又仮に原告が本件物件を譲受けた行為がすべて有効であり、昭和二五年一月二一日本件物件の所有権を取得したとしても、被告は原告に対し次の理由によつて何らの責任をも負うものではない。

(一)  原告が昭和二五年一月二一日本件物件の所有権を取得したとすると、収税官吏が浪速船渠に対する滞納処分として原告所有物件に対してなした昭和二五年一月二六日、同年七月一七日、同年八月一五日付各差押及び同月三一日付公売処分はいずれも他人の財産についてなした違法な行政処分たることは免れない。しかしながら収税官吏が右各処分をなしたことについては原告の権利を侵害するという故意にでたものでないことはいうまでもなく、ただ昭和二四年一一月八日付差押、昭和二五年一月一六日付公売がいずれも被告主張の第三の一記載のとおり無効であると解したことによるのである。ところで右処分が無効であるか否かの判断は極めて微妙困難なもので到底一見明瞭というが如きものでないことは勿論である。そうすると収税官吏が右差押及び公売を無効と判断し、昭和二五年一月二六日付差押以降の各行政処分をなしたとしても、同人らに過失があつたということはできない。そうすると収税官吏の右各処分は他人の権利を侵害する違法な行為といい得るとしても故意過失に基くものでないから不法行為となるものではない。よつて被告は原告に対し何らの責任をも負うものではない。

(二)  又原告は前記被告答弁の第二の一の(ロ)(ハ)のとおり本件物件の引渡を受けていない。そうすると原告は本件物件の所有権を以て第三者に対抗し得ないところ、被告が右第三者に該当することは明らかであるから、収税官吏の昭和二五年一月二六日付差押以降の各処分が不法に原告の財産につきなされたものであるとしても、被告に対し右処分に基く責任を追求することはできない。

(三)  又仮に収税官吏の昭和二五年一月二六日付差押以降の各処分が原告の財産に対する不法行為となるにしても、原告は昭和二五年二月一四日入江から本件物件の買戻代金として金四、〇〇〇、〇〇〇円の送金を受けこれを受領しているので、原告が入江に支払つた本件物件の代金三、五〇〇、〇〇〇円はこれによつて当然返還されているものということができる。そして又原告が本件物件の転売を約したという日本鉄興は原告に対し何らの損害賠償も請求していないのであるから、原告は結局収税官吏の右差押及び公売処分によつて何らの損害をも蒙つていないばかりか却つて金五〇〇、〇〇〇円を利得しているのである。しかるに原告は更に金一一七、一四一、〇〇〇円の損害賠償金の請求をなすものであるが、かかる請求は衡平の原則に鑑み許さるべきものではない。

第四、原告主張の即時取得について。

一、原告が昭和二五年一月二四日もしくは同月二六日本件物件を即時取得したという主張について。

原告が右各日時に本件物件の占有を開始したものでないことは既に被告答弁の第二の一の(ロ)(ハ)において述べたとおりである。従つて原告は本件物件を即時取得すべき道理はない。

二、原告が昭和二五年七月一日本件物件を即時取得したという主張について。

原告が昭和二五年一月二四日もしくは同月二六日本件物件を占有していないことは前項記載のとおりである。仮に右いずれかの日に占有を始めたとしても同月二六日付再度の差押によつてじ後原告の占有は奪われており同年七月一日には占有をしていないものであるから原告が同日以降即時取得する筈はない。なお仮に占有があつたとしても、動産を即時取得するためには、取引によつて承継的に取得した占有がその始めにおいて平穏、公然、善意、無過失でなければならないのであつて、右要件のいずれかを欠く占有が始められた後において、その要件の欠缺が補正されたとしても、この時から新に民法第一九二条にいう平穏、公然、善意、無過失の占有が始められるものではないというのである。

証拠<省略>

理由

第一、原告は請求の基礎に変更のある不当な訴の変更をなすものであるとの被告の主張について。

被告は原告の請求は代償請求を不法行為に基く損害賠償請求に変更したものであるが、右は請求の基礎に変更ある訴の変更であるから許されないものである旨主張する。そこでまずこの点について判断する。原告は昭和二五年九月三〇日付本件訴状請求の趣旨において、「原告に対し被告らは別紙目録記載の物件は原告の所有なることを確認し右物件を引渡すべし。」との判決を求めていたが、昭和二七年五月一六日付訴状訂正の申立において予備的、「もし右物件を引渡すことができないときは、原告に対し被告らは連帯して金四、二〇〇、〇〇〇円及び右に対する本訴状送達の日の翌日から完済に至るまで年六分の割合による損害金を支払うべし。」との請求を追加し、更に昭和二八年八月二九日付請求の趣旨拡張の申立において、右予備的請求の金額を「金一一七、一四一、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から完済に至るまで年六分の割合による金員」に拡張し、更に昭和二九年八月二六日付訴状訂正申立書において右予備的請求のみを求めることに改め(右申立書は被告出頭の同年一二月七日準備手続期日に陳述されており被告は同日から三カ月内にこれに対し異議を述べていないから右期間の経過と共に右所有権確認物件引渡の請求は取下の効力を生じたものである)、次いで昭和三二年七月二六日付訴の取下書において本件被告以外の者に対する訴をその同意を得て取下げていることが一件記録に徴し明らかである。ところで右昭和二七年五月一六日付訴状訂正の申立における原告の被告に対する予備的請求はその記載の形式からして執行不能の場合におけるいわゆる代償請求をなしているものと認められる上、昭和二八年五月二〇日付原告第二準備書面に基き、原告は右予備的請求につき右は「所有権に基く引渡請求が強制執行不能なる場合において更に損害賠償を請求するものである。」旨陳述しているところから、右請求がいわゆる代償請求であるものと認めるのが一見正当であるが如く考えられる。しかしながら一方原告は右準備書面に基いてすら、「執行不能は所有権侵害の不法行為である」「原告は所有権に基く執行が不能な場合には原告の所有権が侵害せられるから損害賠償を求めるものである」と述べた上、更に被告に対する金員の請求は被告の公務員の不法行為に基くものに外ならない旨明言している点を併せ考えると、原告が予備的請求として一見いわゆる代償請求と解せられるような字句表現を用いたことは明らかに不当であり且つ代償請求に対する正しい理解を欠いていることを疑い得るとしても、原告の本件予備的請求の真意はこれをなした当初より不法行為に基く損害賠償の請求に外ならなかつたものと認めるのが相当であるから、原告の予備的請求が代償請求から不法行為に基く損害賠償請求に変更されたことを前提とし、右変更の不当を攻撃する被告の主張は理由のないこと勿論であつて、原告が被告の公売により本件物件を買受けた者から更に買受けたことを主張してその所有権確認と物件の引渡を訴求していたのを、この物件が被告らの不法行為によつて既に追及し得ない第三者に売却処分されたものとして損害賠償の請求を追加すること自体は前訴と後訴とその請求原因事実中の重要部分において共通であり経済的には同一の利益を追及するに過ぎず毫も請求の基礎を変更するものというべきでない。

第二、原告主張の事実関係について。

一、別紙目録記載の物件がもと浪速船渠の所有で大阪市西成区加賀屋町一一番地の同社工場内にあつたものであり、昭和二四年一一月八日同年度源泉徴収の所得税三、四八九、八〇〇円の滞納によつて大阪国税局西税務署収税官吏の差押を受け、昭和二五年一月一六日公売に付され、訴外入江(事実上は使用人富岡芳勝において、以下同じ)が金三、五〇〇、〇〇〇円で落札したことは当事者間に争ない。

そして成立に争ない甲第一号証の三及び証人富岡芳勝、同安田正一、同佐藤豊光の各証言、原告代表者本人訊問の結果によると、元来滞納処分により公売に付した物件については収税官吏から右物件保管者である滞納者に対し、右物件を落札者に引渡すことを命じた売却決定通知書が交付されるものであるが、右は通常落札者を経て交付されているものであり、本件においても収税官吏は浪速船渠に対し右通知書を交付するに当り、落札者である入江を経てこれをなすこととし、右落札の日である昭和二五年一月一六日同人に対し右通知書を交付した事実を認めることができる。そして右認定に反する証拠は存しない。

二、次に、証人富岡芳勝、同安田正一の各証言、原告代表者本人訊問の結果及び右各証拠によつて真正に成立したものと認められる甲第二号証、同第三号証の一ないし三によると、入江は前述のとおり本件物件を落札し、西税務署長から入江及び浪速船渠にあてた各売却決定通知書を受領した後、取敢えず浪速船渠に対して本件物件買戻の交渉をなすこととし昭和二五年一月一七日から再三同社に赴いて交渉をなしたが、遂に右交渉は成立しなかつたため、訴外安田正一の仲介により本件物件を原告に売却することとし、原告代表者木村嘉弘と交渉の末、同月二一日本件物件を原告に対し金四、二〇〇、〇〇〇円で売却することとなり、右代金中金一、〇〇〇、〇〇〇円は同月二三日に、金三、二〇〇、〇〇〇円は同月二六日に支払うことを約した。よつて原告は右約旨に従い入江に対し、同月二三日金一、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、更に同月二四日好意的に金五〇〇、〇〇〇円を支払い、次いで同月三八日金二、〇〇〇、〇〇〇円を支払つた事実を認めることができる。そして右認定に反する証拠は存しない。

ところで原告は、昭和二五年一月二四日入江において本件物件を検品の上浪速船渠から占有改定の方法によつてその引渡を受け、次いで原告は入江から浪速船渠を占有代理人として指図による引渡を受けた旨主張するのに対し、被告はこれを争う。よつてこの点について判断するに、証人富岡芳勝、同安田正一、同田中和一の各証言及び原告代表者本人訊問の結果によると、本件物件を入江から買受けた原告は前述のとおり入江に対し昭和二五年一月二三日に金一、〇〇〇、〇〇〇円、同月二四日に金五〇〇、〇〇〇円を支払い、右金員は直ちに入江から公売代金の一部として西税務署に納入された。そこで原告及び入江は本件物件の検品を希望しその際同署事務官佐藤豊光の同道を求めたところ、同人の差支えにより同じく同署事務官田中和一が同道浪速船渠工場に赴き本件物件の検品をなすこととなり、原告代表者木村嘉弘、入江の使用人富岡芳勝は右田中事務官及び安田正一、古家某、晴某らと共に昭和二五年一月二四日浪速船渠工場に赴き、同社資材課長或いは倉庫課長に面接し、工場内を一巡して本件物件を検品し売却決定通知書記載の物件が概ね存在することを確認した事実を認めることができる。そして右認定に反する証拠は存しない。ところが証人富岡芳勝、同安田正一の各証言中には、同日浪速船渠、入江、原告と順次本件物件の引渡がなされた旨の供述部分も存するが、右は右各証言中その余の部分及び証人田中和一の証言、原告代表者本人訊問の結果に照らし信用できない。却つて右信用できる各証拠によると、同日は未だ公売代金も完納されていないところから、原告においてもその引渡を受け得るものとは考えず、ただ単に自己が入江から買受けた本件物件については全くこれを現認していないところから、代金の一部支払を機にその存在を確認したいと考え入江及び西税務署員の同道を求めて本件物件の所在地に赴きその検品現認をなしたものと認めることができる。従つて原告が同日本件物件の引渡を受けたとする原告の主張は到底これを採用することができない。

三、次に、昭和二五年一月二六日入江が西税務署において同署事務官佐藤豊光に対し本件公売代金を完納したことは当事者間に争ない。そして証人富岡芳勝、同佐藤豊光の各証言によると右代金納入の時刻は凡そ午前一〇時頃であつたものと認めることができる。

ところが原告は右代金完納後浪速船渠工場に赴き、まず入江が浪速船渠から本件物件を占有改定の方法によつて引渡を受け、しかる後原告は入江から浪速船渠を占有代理人として指図による引渡を受け、次いで原告は浪速船渠と本件物件搬出の交渉の末、翌二七日これをなすことに定めた旨主張するのに対し、被告はこれを争う。よつてこの点について判断するに、本件全証拠を以てしても右事実は到底これを認めることはできない。尤も証人富岡芳勝、同安田正一、同佐藤豊光の各証言、原告代表者本人訊問の結果中には、「昭和二五年一月二六日午前一〇時頃入江において本件公売代金を西税務署において完納の上、原告代表者木村嘉弘は富岡芳勝、安田正一、古家某、晴某、沢田義雄及び西税務署事務官佐藤豊光らと共に午前一一時頃に浪速船渠工場に赴き、その事務所において、同社梶原、小笠原、戎ら三重役に会い、まず佐藤において浪速船渠側重役らに対し、本件物件は税務署の手を離れ買主に引渡したから買主が引取に来たときは双方立会の上で受渡をなすこと、もしその際数量が不足するようなことがあると税務署の責任となるから間違いのないよう注意するとの伝達がなされた」趣旨の供述部分があり、又証人佐藤豊光、同沢田義雄の各証言及び原告代表者本人訊問の結果中には、更に「同日原告代表者木村嘉弘、沢田義雄、佐藤豊光らは浪速運船渠倉庫係員の案内で本件物件を品目別に逐一検品をなした」趣旨の供述部分も存するが、右の中公売代金完納の点を除くその余の部分は証人松ケ崎浩、同大倉政実、同西川昌之助の各証言中、「昭和二五年一月二六日午前一〇時頃から午後二時までの間、収税官吏松ケ崎浩、同稲葉三之助の両名は浪速船渠工場において法人税の滞納処分として同社庶務課長大倉政実及び倉庫係員立会の下に本件物件その他の物件の差押をなしたが、その間原告ら一行が同工場に来たことは見聞しておらず、又同日浪速船渠の重役は工場には誰も出向いていなかつた」趣旨の供述部分と対比するとき俄かに信用することができない。しかし仮に原告代表者木村嘉弘、富岡芳勝、安田正一、佐藤豊光らが同日午前中に浪速船渠に赴き同社重役に面接した事実を認めることができるとしても、同日入江が浪速船渠から占有改定の方法によつて本件物件の引渡を受けたとの事実は認め難い。尤も前述のとおり本件証拠中には右事実に符合する部分も存するが右証拠の信用できない理由も前述したとおりである。なお証人富岡芳勝の証言及びその記載内容からして、浪速船渠から入江あて本件物件の引渡があつたからには同人から浪速船渠に対して交付さるべきものと認められる売却決定通知書(甲第一号証の三)が、証人富岡芳勝の証言及び同号証の提出方法自体からして同日同社に交付されていない事実が認められる点から考えても、同日入江が本件物件の引渡を受けたという事実は認め難い。そうすると結局原告のこの点に関する主張事実はこれを認めることができない。

四、次に、大阪国税局収税官吏松ケ崎浩、同稲葉三之助の両名が昭和二五年一月二六日浪速船渠工場において同社に対する法人税滞納金のため本件物件及びその他の財産を差押えたことは当事者間に争ない。

又証人富岡芳勝、同佐藤豊光、同松ケ崎浩、同宇野義明、同大倉政実の各証言によると、右差押は同日午前一〇時から午後二時頃まで行われ従つて入江が昭和二五年一月一六日付公売処分の落札者としてその公売代金を完納した同月二六日午前一〇時の直後になされたこと及び右松ケ崎、稲葉両名は西税務署派遣の大阪国税局滞納特別整理班員として、班長宇野義明の指揮監督の下に職務に従事していた者であり、本件差押は直後には宇野の補佐役であつた千葉事務官の指示によつてなされたものであることなどを認めることができる。そして右認定に反する証拠は存しない。

五、次に、原告代表者木村嘉弘らが昭和二五年一月二七日人夫数十名と共にトラック八台を以て本件物件引取に浪速船渠工場に赴いたところ、同社は門を閉し搬出を拒んだため、前日大阪国税局収税官吏によつてなされた差押を知つたので、直ちに西税務署に赴き同署内大阪国税局派遣宇野係長に面接し即刻差押解除を求めた事実は当事者間に争ない。

そして証人安田正一一の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第八号証の一、三及び証人富岡芳勝、同安田正一、同中谷好太郎、同梶原九十九の各証言、原告代表者本人訊問の結果によると、前記宇野義明は原告の昭和二五年一月二六日付差押の解除要求に対し、浪速船渠に利益をつけさせるから同社重役と面談の上同社の買戻に応じてやつて貰いたいとのことであつたが、原告はもはや右買戻に応ずる意思はなく、あくまで安田正一、中谷好太郎らに命じて右差押解除を要求せしめていたものの、原告としても日時を費すことは不測の損害をも予期し難いので遂に右買戻の斡旋に応ずることとし、安田正一を代理人とし、晴武一、古家計理士、富岡芳勝立会の下に浪速船渠梶原、小笠原、戎三重役との間において昭和二五年一月末日から二月初にかけて三回大阪市南区戎橋筋の料亭オメガにおいて交渉を重ねたが、右交渉は妥結するに至らず遂に同年二月四日浪速船渠本社において右交渉を打切つた事実を認めることができる。従つて証人宇野義明の証言中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定に反する証拠は存しない。

六、次に、原告が国税徴収法第一四条に基き大阪国税局長に対し財産取戻の請求をなしたところ、同局長は昭和二五年七月一一日先に西税務署収税官吏のなした公売処分は無効であるとの理由で原告の請求を棄却したことは当事者間に争ない。

但し、原告は右請求の日は昭和二五年二月二三日と主張するが、右日時については証拠がないのでこれを認めることができない。

七、次に、大阪国税局収税官吏今川忠一が昭和二五年七月一七日に至り、同年一月二六日付差押を解除すると共に右七月一七日及び同年八月一五日の二回に亘り改めて本件物件その他の財産の差押をなした事実は当事者間に争ない。

八、次に、西税務署長二位泰が昭和二五年八月三一日本件物件その池を公売に付し、浪速船渠代表取締役熊谷八郎個人に金一一、七四六、一四六円を以て競落させた事実は当事者間に争ない。

原告は右公売は机上売買という最も簡易な方法でなされたと主張するのに対し被告はこれを争う。そして証人安田正一の証言中には右事実に符合する部分も存するが、右は証人梶原九十九の証言に照らし信用しない。そして他に右事実を認めるに足る証拠も存しないので右事実はこれを認めることはできない。

九、次に、証人沢田義雄、同中谷好太郎、同安田正一の各証言及び原告代表者本人訊問の結果によると、原告は昭和二五年一月二一日入江から本件物件を買受けることとなり、同人との間において売買契約を締結するや、直ちに本件物件中鋼板、型鋼、棒鋼、鋼管等についてはその引渡を受けた日時において日本鉄興に対し転売するここを約し、転売価格については、当時鉄鋼の統制撤廃の気運が濃厚で統制が撤廃されると価格の暴騰が予想され、将来の価格については全く予断を許さない状態にあつたため、転売時期に統制があれば公定価格、統制撤廃後であればその時の時価と定めたこと、その後昭和二五年一月二六日収税官吏の本件物件に対する差押があり、原告の本件物件引取が不能となつたので、原告は直ちに右差押の不当を鳴らしてその取消方を交渉し更に国税徴収法第一四条に基く財産取戻の請求を大阪国税局長に対してなすと共に、日本鉄興に対しては本件物件の引取が大体二カ月を要するとの予想の下に本件鉄鋼品の転売時期を昭和二五年四月末日まで延期することを申入れ同社の諒解を得たこと及び右四月末日に至るも原告と大阪国税局との間の交渉が落着しないので、原告は更に転売期日の延期を求めたところ、日本鉄興は同年六月三〇日を以て鉄鋼品の統制も撤廃になる予定でありその後は価格の暴騰が予想されるので同社としても本件鉄鋼品を更に需要者に転売する予定でいる以上、本件鉄鋼品をこれ以上待つ訳にはいかず他より入手の方法を講ずるとのことであつたが、原告は更に延期を懇請した結果、本件鉄鋼品転売の期日を最大限度一カ年延長し右期間内に原告が本件物件を引取ることができれば直ちに右日本鉄興に転売する旨の合意が成立した事実を認めることができる。そして右認定に反する証拠は存しない。

更に原告は本件物件中右鉄鋼品以外の物件も、右鉄鋼品と共に右認定の約定で日本鉄興に転売することを約していたと主張するが、右事実はこれを認めるに足る証拠も存せず従つてこれを認めることはできない。そして証人安田正一の証言及び原告代表者本人訊問の結果によると、本件物件中鉄鋼品以外のものについてもこれを引取つた上はいずれ転売する予定でいたが、未だ具体的な転売の交渉はなしておらず、引取の上は原告の手許におきその後転売先を考慮する意図であつた事実を認めることができる、

一〇、原告は昭和二五年八月三一日付本件物件の各時価は別表(一)記載のとおりでその合計は金五五、八一九、〇〇〇円であると主張するのに対し被告はこれを争う。そこでこの点について判断するに、後に説明するように鋼板以下五品目の統制物資については結局においてその価格を判断する要はないのでこの点に関する判断は省略し、非統制物資の同日付時価について判断することとなるが、証人沢田義雄の証言及び原告代表者本人訊問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第六号証の一によると屑鉄の昭和二五年八月二二日付時価は屯当り金四、六〇〇円、砲金屑の同日付時価は屯当り高値金一一〇、〇〇〇円であつた事実を認め得るところ、本件リベット及びボールトが戦時規格品につき屑鉄であり、非鉄金属が砲金屑であることは当事者間に争ないので、本件リベット及びボールトの同日付時価は前記屑鉄の同日付時価であり、本件非鉄金属の同日付時価は前記砲金屑の同日付時価であつたものと認めることができる。そして右認定に反する証拠は存しない。ところで昭和二五年六月末朝鮮動乱がぼつ発し、その頃から金属類の価格が暴騰したことは公知の事実であるから、同年八月二二日以降同月三一日までの間に右鉄屑、砲金屑等が値上りし少くとも値下りしていないものと推定するのが相当である。そうすると同年八月三一日付時価は少くともリベット及びボールトは屯当り金四、六〇〇円で計金一、二一四、四〇〇円、非鉄金属は同じく屯当り金一一〇、〇〇〇円で計金四、六七五、〇〇〇円であつたものと認めることができる、そして本件物件中その余の非統制物資の同日付時価については証人中谷好太郎の証言中に、同人が右物件の時価につき調査したところ原告主張の価格であつた旨の供述部分が存するだけであるが、このような根拠のはつきりしない証言は直ちに採用し難く、他に右事実を認めるに足る証拠も存しないので、結局右事実はこれを認めることができない。そうすると本件物件中当裁判所の認定した同日付時価は別表(一)のとおりである。

次に原告は昭和二六年四月一四日付及び昭和三二年七月四日付本件物件の各時価はそれぞれ別表(二)及び(三)のとおりでその合計はそれぞれ金一一七、一四一、〇〇〇円及び金一三〇、五九一、〇〇〇円であると主張するのに対し被告はこれを争うのであるが、後に説明するように右各時価については結局においてその価格を判断する必要がない。

第三、滞納処分により滞納者の財産を入札の方法で公売する場合においてその財産の所有権が最高入札者に移転する時期について。

原告は滞納処分により滞納者の財産を入札の方法で公売する場合においては動産不動産の別なくその財産の所有権は収税官吏が開札して最高入札者の何人たるかを知りこれを落札者とし財産の売却決定をなし右決定通知書が落札者に交付されたときにおいて落札者に移転するものであると主張する。これに対し被告は滞納者の有体動産を公売する場合においては収税官吏の売却決定があり同決定通知書が落札者に交付されると同時に指定された代金納入期日にその公売代金を完納しそれと引換に右有体動産の引渡がなされた時において初めて落札者にその所有権は移転するものである旨主張する。よつてこの点について考えるに、そもそも公売処分とは差押処分に基き国家が滞納者から徴収した処分権の行使として収税官吏の行う強制売却処分に外ならない。従つてそれは滞納者に対する関係においては同人の意思によらず強制的にその所有権の移転を生ぜしめるものであつて国家権力に基く処分であり行政行為に外ならないけれども、右処分に基き落札者又は競落者が滞納者の所有財産を取得する関係においては単なる私法上の売買とその性質を異にしない。そうすると公売処分による競落札者の公売物件に対する所有権取得の時期も、物権変動について意思主義を採るわが法の立場としては、公売処分において滞納者と競落札者間に売買契約が成立したと認められる時期にあるものといわねばならない。然らば公売処分において右売買契約はいかなる時期に成立するものであるかというに、右は収税官吏において最高入札者の入礼に対しては同人を落札者と決定し、最高価競買申出人の競買申出に対しては同じく同人を競落者と決定した時にあるものと解することができる。そうすると公売処分において最高価入札者に公売物件の所有権が移転する時期は収税官吏が右入札者を落札者として財産売却の決定をなし、その告知の方法として売却決定通知書が同人に交付された時にあるものといわねばならない(明治三七年五月三一日大審院刑事部判決、刑録一〇集一一八九頁参照)。ところで被告は国税徴収法執行規則第二七条、民事訴訟法第五七七条第二項、第三項前段に照らし公売処分による所有権移転の時期は金銭債権に基き有体動産に対し強制執行をなす場合と何ら異るところはなく公売代金を完納して公売物件の引渡を受けた時であると主張する。しかしながら右主張は、金銭債権に基く有体動産に対する強制執行において競落人に所有権が移転する時期が民事訴訟法第五七七条第二項、第三項前段に則り競売代金の支払と引換に競落物の引渡を受けた時であると解釈することを前提とする。しかし右解釈はそもそも正当であらうか。成程有体動産に対する強制執行においては不動者に対するそれのように競落人は競落許可決定によつて競落物の所有権を取得するとの規定即ち民事訴訟法第六八六条に相当する規定を欠いている。けれどもそうだからといつて同法第五七七条第二項、第三項前段を根拠に被告主張のような解釈をなすことは疑問であつて、寧ろ有体動産の強制競売の場合においてもその所有権移転の時期は売買契約成立の時と看做さるべき最高価競買申出人の競買申出に対し執行吏が競落の告知をなした時であり、ただ右第五七七条第二項、第三項前段に則り右所有権の移転は代金の不払を解除条件としてなされているものと解釈すべきであると考えるのである。そうすると右民訴第五七七条第二項、第三項前段に対する独自の解釈を前提としてなす被告の主張はその余の判断をなすまでもなく採用できないのであるが、仮に有体動産に対する強制競売において競落人の所有権取得の時期を被告主張のように解釈するとしても、右解釈を国税徴収法に基く公売処分にまで適用することはできない。即ち被告において民事訴訟法第五七七条第二項、第三項前段に対応する規定であると主張する国税徴収法施行規則第二七条によると、「公売財産ノ買受人カ代金納付ノ期限マデニソノ代金ヲ完納セサルトキハ収税官吏ハソノ売買ヲ解除シ更ニコレヲ公売スヘシ」と規定され、公売処分における滞納者と競落札者間の売買契約成立後、競落札者において代金を完納しないときは収税官吏は契約解除の手続を採つた上、更に公売すべきものとされており、売買契約成立の時期が代金完納の前であることを明定していることなどから、同条は民事訴訟法第五七七条第二項、第三項前段とは異つた規定というべきである。そうすると右両条が同一の趣旨のものであることを前提としてなす被告の右主張は認め難い。結局公売処分において公売物件の所有権が落札者に移転する時期に関しては、原告の主張が正当であるということができる。

第四、公売処分による入江の本件物件の所有権取得が無効であるとする被告の主張について。

一、成立に争ない乙第二号証の一及び二によると、西税務署長は昭和二五年七月一〇日入江及び浪速船渠に対し、「昭和二五年一月一六日付公売処分は重要な法規ないし例規違反が認められ、しかも瑕疵の存在が明白であり且つ必要な他の機関の協力を欠く行政行為であり、これらは民法第九〇条の趣旨に徴しても看過し得ない行政処分であると認められるから、この公売処分は無効の行政処分であることを宣言し、ここにその取消を通知する。」旨の書面を送り右公売処分の無効宣言的意味における取消をなした事実を認めることができる。

二、そこで右昭和二五年一月一六日付公売処分が無効であるとする被告主張について順次判断することとする。

(一)  本件物件は大部分が統制物資であるから、右公売処分は無効であるとの点について。

本件物件中、右公売処分当時において統制物資に該当するものの範囲。

被告は本件物件中、鋼板、型鋼、棒鋼、鋼管、ワイヤロープ、木材、塗料は当時指定生産資材割当規則第一条によるいわゆる統制物資である旨主張する。これに対し原告は右鋼板、型鋼中大部分は相当量の穴をあけて加工されており再生用屑鉄ともいうべきもので右規則にいう統制物資には該当しない旨主張する。よつてまず本件物件中右統制物資に属するものの範囲について考えるに、指定生産資材割当規則(昭和二三年六月一五日総理庁、法務府、大蔵省、文部省、厚生省、農林省、商工省、運輸省、逓信省、労働省令第一号)第一条第一項に基く附表第一によると本件物件中、艤装品、鋳造品、補キ、パッキング、計器、弁コック、雑品、電気用品が右規則施行日である昭和二三年六月一五日当時から既に同規則にいう指定生産資材に属しなかつたことは明白である。そしてその余の物件については右規則の施行日において、鋼板は同規則附表第一の八のハの1に、型鋼は右八のハの11に、棒鋼は右八のハの12に、鋼管は右八のハの3に、ワイヤロープは右一〇のホに、木材は右三一のイ、ヘに、塗料は右一九のロ、ワに、非鉄金属は右一三のイないしワに、リベット、ボールト、鉄釘類はいずれも右一〇のイに、燃料類は右一のロ、ハに各該当し、いずれも指定生産資材であつた。ところが、右物件中、リベット、ボールト、鉄釘類は昭和二四年七月二三日通産省令第一九号により、燃料類は同年九月一六日通産省令第四七号により(但し同令により指定生産資材から除外されたのはコークスであるが、本件燃料類が昭和二五年一月一六日当時指定生産資材でなかつたことは当事者に争いないところから、右燃料類はコークス又はその他の統制外燃料と認める)、非鉄金属類は昭和二四年四月六日商工省令第一六号、同年九月三〇日通産省令第五二号、同年一二月二九日農林省、通産省令第一〇号により(但し右令第一六号により指定生産資材から除外された非鉄金属類は故銅、アルミニウム屑及び同合金屑、水銀、カトミウムであり、右令五二号により除外されたものは銅、鉛、故鉛、亜鉛、アルミニウムであり、右令第一〇号により除外されたものは錫、アンチモン、コバルトであるが、本件非鉄金属類が砲金屑であることを被告は明らかに争はず砲金は銅、錫の合金であるから結局右非鉄金属類は右指定除外のものの一であると認める)、ワイヤロープ及び木材は共に同年一二月二九日農林省、通産省令第一〇号により、それぞれ指定生産資林から除外された。よつて昭和二五年一月一六日公売処分当時本件物件の中で指定生産資材に該当したものは鋼板、型鋼、棒鋼、鋼管、塗料(但し本件塗料が昭和二五年一月一六日当時指定生産資材であつたことは当事者間に争ないところから、右塗料は通産大臣が告示で生産資材であることを除外したものに該当していなかつたものと認める)であつたものということができる。尤も証人沢田義雄の証言中には、右鋼板、型鋼中には穴をあけてある程度加工されたものも包含していた旨の供述部分もあるが、仮に右供述部分を信用するとしても、指定生産資財割当規則にいう統制から除外さるべき屑鉄というのは、熔解の上鋳鍛造の過程を経て鉄鋼として使用すべきものをいうのであつて、単に切断加工することによつて使用し得べきものは未だこれを屑鉄とはいい得ないと解すべきであるから、もし本件鋼板、型鋼中の一部について既に穴をあけ加工した事実があつたとしても、それだけでは直ちに右鋼材中の一部を屑鉄と認め得ないばかりでなく、又仮に一部屑鉄と認め得るとしても右鋼材中の特定部分についてこれを主張立証するものでない以上、右鋼材中の一部を非統制物資であると認めることはできない。してみると本件物件中昭和二五年一月一六日付公売処分当時指定生産資材に属し統制に服したものは鋼板、型鋼、棒鋼、鋼管、塗料の五品目であつたものということができる。

本件物件中には右公売処分当時において統制物資に属するものが存するから右公売処分は無効であるとの被告主張の当否。

まず公売物件中にいわゆる統制物資が存する場合、右公売処分による所有権の移転が無効であるとしても、それは右統制物資の範囲内に限らるべきであつて、非統制物資の公売処分にまでその影響を及ぼすべきものではない。従つて本件物件中非統制物資に関しては被告の右主張は理由がない。

被告は、統制物資を国税滞納処分によつて公売する場合においては右統制法規の趣旨に鑑み昭和二四年三月一六日付蔵税第八六一号主税局通達によつて随意契約を以て産業復興公団に買取らさなければならないものとされていたところ、右公売においては右通達によることなく統制物資を公売処分に付したものであるから右公売処分は無効である旨主張する。これに対し原告主張の主税局通達は単なる行政上の訓令であるからこれに違反したからといつて公売処分の効力に影饗するものではない旨主張する。よつて案ずるに、右通達は主として産業復興資材として重点的配給が必要とされた統制物資が公売処分に付されることによつて不要不急の部門に流れるのを防止する見地から、大蔵省主税局において関係行政庁である国税庁、国税局、税務署の各収税官吏に対し権限行使の指針として示したものに過ぎず、法令というべき性質のものに該当しないこと極めて明白であり、況やこれに違反した場合私法上の効力まで否定し去るいわゆる強行法規と解することは全く不可能であるから、たとえ公売処分が右通達に違反してなされたとしても違法の問題を生ずる余地はなく、又右公売処分に伴う私法上の効力を失わしめるものではない。よつてこの点に関する被告の主張は理由がない。

次に被告は指定生産資材割当規則第一条に基くいわゆる統制物資の譲渡行為は臨時物資需給調整法第一条、指定生産資材割当規程第一条、第八条、第九条に則つてなされねばならならず右法令違反の譲渡行為は無効というべきところ、本件右公売処分はいわゆる統制物資についてなしたにも拘らず右法令によらずしてなしたものであるから無効である旨主張する。これに対し原告は国が物件を公売する場合には統制法規の適用はない旨主張してこれを争う。よつて案ずるに、臨時物資需給調整法第一条によつて制定された指定生産資材割当規則第一条、第八条、第九条によると、同規則附表第一で通産大臣又は農林大臣の指定した生産資材の譲渡譲受は、(イ)販売用割当を受けた販売業者が通産大臣又は農林大臣が経済安定本部総裁の承認を受けて定める手続に従い微量需要者に譲渡し、微量需要者が右販売業者から譲受ける場合、(ロ)需要者が経済安定本部総裁の定める方策に基く主務官庁の許可を受けて需要者に譲渡し、需要者が右許可を受けた需要者から譲受ける場合、(ハ)所有者が貿易等臨時措置令の規定に基き通産大臣の定める輸出入手続に従い譲渡し、これを右規定に基き右手続に従い譲受ける場合、(ニ)その他臨時物資需給調整法又は同法に基く命令の規定により又はこれらの法令の規定に基く主務官庁又は物資の所管官庁の命令又は許可を受けて譲渡し、これを右法令の許可を受けて譲受ける場合、を除いてはすべて所有者、販売業者、需要者の各相互間において、需要者割当証明書又は販売業者割当証明書の記載するところに従い且つこれと引換に譲渡し譲受けることができるに過ぎず、右各場合に該当しない移転行為はすべて禁止されていたことが明らかであるが、右規則に定められたことは臨時物資需給調整法第一条に規定のとおり産業の回復及び振興に関し経済安定本部総裁の定める基本的な政策及び計画の実施を確保するために採られた措置であるからその違反行為に対しては私法上の効果の実現について国家の助力を求め得ないいわゆる強行法規と解するのが相当である。従つて右規則に違反してなされた本件公売処分に基く統制物資の所有権移転行為はすべて無効であるといわねばならない。ところで原告は、たとえ右規則が強行法規であるとしても国が公権力に基いて公売処分に付した場合には右規則は適用されない旨主張する。しかしながら公売処分といえども競落札者が滞納者の所有財産を取得する関係においては単なる私法上の売買と同一であることは前述のとおりであるから、右公売物件の移転行為にも当然臨時物資需給調整法第一条、指定生産資材割当規則第一条、第八条、第九条の適用があり右法令に違反してなされた場合右行為は無効たるを免れない。

(二)  右公売処分は民法第九〇条に則り無効であるとの点について。

被告は右公売処分はその落札者又は転得者の暴利ないしは統制違反行為を誘発し社会に悪影響を与えるものであるから民法第九〇条に則り無効であると主張する。これに対し原告は入江は本件物件を概ね適正な価格で落札したものであるから暴利行為を誘発すべき筈はないし右公売が統制違反行為を誘発するとの理由は理解し難い旨主張してこれを争う。よつてこの点について判断するに、統制物資の公売については既に強行法規違反の無効があるから右物件についての本項主張はこれを論ずる要なく、非統制物資につき右公売がその落札者又は転得者の暴利行為を誘発したかという点についてのみ判断することとなるか、入江の落札価格が公売処分の一般の例に洩れず市場価格より安価に落着している点は推認するに十分であるけれども未だ入江及び転得者らの暴利行為を誘発する程度に安価に落札されていたものとは認めるに足る証拠がない。尤もその後の朝鮮動乱による金属類の急激且つ継続的値上りという公知の事実によつて落札者又は転得者が本件物件を長期間所有していた場合には暴利を獲得し得た公算は大であつたが、右は経済界の好況に基因するものであつて本件公売価格の不適正によるものではない。してみると被告のこの点に関する主張はいずれもこれを採用することができない。

(三)  右公売処分はその前提となる差押処分が管轄区域外の収税官吏によつてなされたもので無効であるとの点について。

被告は、右差押当時施行されていた国税徴収法施行規則第一四条によると差押えるべき財産が管轄区域外に在るときは収税官吏はその財産所在地の収税官吏に滞納処分の引継をなすべきものとされ、各税務署に所属する収税官吏は当該所属税務署の管轄区域内においてのみ滞納処分をなす職務権限を有していたものに過ぎないから、もし収税官吏がその管轄区域外において滞納処分をなしたときは、右は権限のない者によつてなされたものに外ならず無効というべきところ、本件右差押処分は西税務署収税官吏がその管轄区域外である西成区所在の浪速船渠工場において同所内物件についてなしたものであるから、右差押処分は固よりこれに基く公売処分も又無効であると主張する。これに対し原告は、元来行政機関の管轄区域外の行政行為が無効とされる場合とはその行政行為を定めた趣旨が相対する当事者間の利害の調整を目的とし又は利害関係人の権利利益を保護することを目的として定められている場合において、その管轄を誤ることによつてその行政行為に重大明白な瑕疵を生ずるような場合に限らるべきところ、本件右管轄のように単なる行政上の便宜を主たる目的として定められているものに過ぎないときはこれに違背したからといつて重大な瑕疵とはいえず又浪速船渠の管轄税務署収税官吏が同社に対する滞納処分として管轄外地域所在の同社工場内物件を差押えたとしても明白な瑕疵とはいえないから右差押は無効となるものではない旨主張してこれを争う。よつてこの点につき判断するに、昭和二四年一一月八日本件差押当時施行の昭和二六年政令第七三号による改正前の国税徴収法施行規則第一四条によると、差押うべき財産が管轄区域外にあるときは収税官吏はその財意所在地の収税官吏に滞納処分をの引継をなすべきものと規定され、当時各税務署に所属する収税官吏は当該所属税務署の管轄区域内財産についてのみ滞納処分を行う職務権限を有していたことが明らかである。そうすると本件において浪速船渠の本店所在地にして源泉徴収所得税の納税地の所轄税務署である西税務署収税官吏がその管轄区域外にして西成税務署管轄区域内の同社西成工場内の本件物件を滞納処分するについては同署収税官吏に滞納処分の引継をなすべきであるのに、これをなさず自ら管轄区域外において右物件に対する差押をなし、次いで公売処分をなしたものであるから、右差押及び公売処分が右国税徴収法施行規則第一四条に違反した瑕疵ある行政行為であることは勿論であるが、被告は更に右処分は無効のものである旨主張するので更に進んでこの点について考察することとするが、凡そ瑕疵ある行政行為といえどもこれが無効となるためにはその瑕疵が明白且つ重大でなければならない。ところで本件右滞納処分は西税務署収税官吏がその管轄区域外であること一見明瞭な西成区所在の浪速船渠工場内の本件物件につきなしたものであるから、その瑕疵は一応明白であるということができる。しかしながら一方国家公務員たる大蔵事務官である収税官吏は国税徴収法に基く滞納処分に関しては広く同法施行区域内においてその権限を行使し得べき抽象的職務権限を有する者であつて、その権限行使の具体的範囲を定めた土地管轄は単に行政行為の適正と便宜のためのものに過ぎないと解すべきであるから、仮に収税官吏においてその土地管轄に違反したからといつて直ちに右瑕疵が右滞納処分の無効を来す程度に重大なものであるとは認め難い。そうすると結局右滞納処分は取消し得べき事由たる瑕疵ある行政行為(現実に取消せるかどうかは他の点の考慮を要し本件においては取消せないこと後記の通り)といい得るに止り無効のものとは認め難いから、被告のこの点に関する主張は採用し得ない。

三、以上の理由により昭和二五年一月一六日付公売処分は結局当時いわゆる統制物資であつた鋼板、型鋼、棒鋼、鋼管、塗料の五品目(以下本件統制物資という。)については無効であるが、他の物件(以下本件非統制物資という。)については単に場合により取消し得べき事由たる瑕疵あるものたるに過ぎず無効とは認め難い。

ところで原告は、仮に右公売処分が無効であるとしても、被告は自己の公務員のなした行政行為が当事者間に異議なく終了した後において、右公務員が過失によつて違法な行為をなしたことを理由に右行為の無効を主張するものに外ならないが、何人も自己の過失を原因として相手方の権利の取得を妨げ得ないものであるから、被告は右無効は主張し得ない旨主張する。よつてこの点について考えるに、凡そ無効とは何人の主張をもまたず当然絶対的に効力のないものである。しかしながら行政行為の無効については一応行政行為が存在する以上、それは拘束力を有するかのような疑を生ぜしめるものであつて、且つ右疑を生ぜしめることによつて行政行為の性質上社会の法的秩序の客観的安定性を害することが大きいところから、かかる行政行為については概ね権限ある行政庁によつて無効宣言的意味においてこれが取消をなさしめその明確を期しているのである。それ故たとえ無効な行政行為(本件についていえば鋼板以下五品目の統制物資に関する差押及び公売処分)について無効宣言的意味の取消がなされたからといつて、それは通常の取消と異なり何らの形成的効力をも有するものではないから、右取消行為によつて相手方において何ら既得の権利を喪失せしめられるものでないことはいうまでもない。ところで原告の主張は右の如き意味の取消によつて原告の取得した権利を喪失せしめられるものであるとの前提に立つてこれをなすものであるから、右主張は結局理由がないことに帰する。

次に本件物件に対する前記差押及び公売処分が管轄区域外の収税官吏によつてなされたもので取消し得べき原因を有する瑕疵あるものであることは前述のとおりである。ところで右滞納処分については前記認定のとおり昭和二五年七月一〇日付を以て権限ある西税務署長によつて無効宣言的取消がなされているのであるが、右無効宣言的取消は確認的なものに過ぎず何ら形成的効力を持つものでないこと前述のとおりであるから、他に右滞納処分取消の事実が存しない以上、右瑕疵ある行政行為は未だ取消されておらず、現に有効に存続しているものということができる。

又仮に右西税務署長の取消をいわゆる瑕疵ある行政行為の本来の取消と解し得るとしても、凡そ行政行為(本件についていえば前記五品目以外の非統制物資に関する差押及び公売処分)を取消すに当つては単に行政行為に瑕疵があり、右瑕疵が取消し得べき原因となり得るばかりでなく、右取消の時期において現実に取消をなすに値するだけの公益上の理由が存しなければならず、いやしくも右行政行為に基き第三者が悪意又は重大な過失なくして取得した権利や利益を侵害する場合には余程強い公益上の理由がなければ右取消はなし得ないものと解すべきである。ところで元来公売処分という行政行為は滞納者に対する関係では常に公売物件の所有権を剥奪するものであるが、一方公売物件を競落札した者に対する関係では常に権利を得せしめるものに外ならないから、公売処分については未だ売却決定が行われず従つて第三者が権利を取得していない段階では軽微な瑕疵に基いてもそれを取消して差支ないであろうが本件非統制物資のように訴外入江更には原告が既に権利を取得した後において公売処分を取消すことは入江や原告の権利を侵害するものなる以上、同人らに例えば管轄違反の違法を税務官吏にそそのかしたるが如き悪意又は重大な過失ある場合は格別、かかる事実の存しない限り右取消は管轄違反というが如き軽微なる瑕疵を以てしてはこれをなし得ないものといわねばならない。従つて本件右公売処分においても落札者たる原告について前記悪意又は重大な過失があり収税官吏においてこの点を考慮して右公売処分の取消をなしたものであるとの主張立証のない本件においては収税官吏のなした右取消は重大且つ明白なる瑕疵のある無効な行政処分であり、本件公売処分は非統制物資に関する限り有効であると認めざるを得ない。

第五、原告の本件物件の所有権取得について。

一、公売処分による入江の本件物件中一部の所有権取得。

前記第二の一、第三、第四のとおり、入江は本件物件中非統制物資についてその所有権を取得したものと認めることができる。

二、原告の買受ける本件物件中一部の所有権取得。

前記第二の二のとおり、原告は昭和二五年一月二一日入江から本件物件を代金四、二〇〇、〇〇〇円で買受けたものであるが、当時入江の所有に属したものは前述のとおり本件物件中非統制物資のみであるから、原告が入江から買受けてその所有権を取得したものも右非統制物資の範囲内においてである。

ところで被告は、本件物件はその大部分が指定生産資材割当規則第一条にいう指定生産資材であるから、右物件を含む本件物件の入江、原告間の売買行為は臨時物資需給調整法第一条、指定生産資材割当規則第一条、第八条、第九条に違反してなされた無効のものであり、従つて原告は右売買行為によつて何らの所有権をも取得するものではない旨主張する。これに対し原告は本件物件中統制物資については仮に原告買受けが無効であるとしても、それはその部分に限らるべきであつて、本件物件中に一部統制物資を含むからといつて非統制物資の買受行為まで無効となるものではない旨述べてこれを争う。よつて判断するに、売買物件中に統制物資を含むため、右売買に基く所有権の移転が無効である場合においても、それは右統制物資の範囲内に限らるべきであつて非統制物資の売買にまで及ばないことは正しく原告所論のとおりであるから、被告のこの点に関する主張は理由がない。してみると原告は入江から本件物件を買受けることによつて非統制物資についてはその所有権を取得したものということができる。

第六、原告の本件物件に対する即時取得の主張について。

原告は、仮に昭和二四年一一月八日付差押、昭和二五年一月一六日付公売処分がいずれも無効であるとしても、原告は入江と本件物件の売買契約を締結した後同月二四日若くは二六日入江から右物件の引渡を受けて平穏、公然、善意、無過失にその占有を始めたものであるから原告は同日本件物件を即時取得した。仮に原告が右占有を開始したとき本件物件の譲受が指定生産資材割当規則違反であることを認識するについて過失があつたとしても臨時物資需給調整法に基く統制は昭和二五年七月一日廃止されたため同日以降の原告の占有は無過失となつたものであるから原告は同日以降平穏、公然、善意、無過失にその占有を開始したものであり同日本件物件を即時取得した旨主張する。これに対し被告はまず原告がその主張の日に本件物件の占有を開始した事実を争い、次いで仮に占有があつたとしても即時取得の効果を生ずるためには、取引によつて承継的に取得した占有がその始めにおいて平穏、公然、善意、無過失でなければならないのであつて、右要件のいずれかを欠く占有が始められた後において、その要件の欠缺が補正されたとしても、この時から新に即時取得の要件たる平穏、公然、善意、無過失の占有が始められるものではない旨述べてこれを争う。よつて案ずるに、本件において本件物件中統制物資については昭和二五年一月一六日付公売処分は無効で入江はその所有権を取得するものでないが、原告は右統制物資を入江から譲受けることによつてこれを即時取得するものであるか否かについて考えるに、まず原告が右統制物資を含み本件物件の占有をその主張の日に開始した事実の認め難いこと前記第二の二、三のとおりであるから原告の即時取得の主張についてはその余の判断をまつまでもなく失当である。

第七、被告の公務員の不法行為について。

一、収税官吏の昭和二五年一月二六日、同年七月一七日、同年八月一五日付各差押処分及び同年八月三一日付公売処分の違法性、

原告は前記第五のとおり昭和二五年一月二一日本件物件中非統制物資についてはその所有権を取得したものであるが、収税官吏は前記第二の四のとおり同年一月二六日浪速船渠に対する滞納処分として原告所有の右非統制物資につき差押をなし、又第二の七記載のとおり同年七月一七日右差押を解除すると共に同日及び同年八月一五日の二回に亘り更に右非統制物資につき差押をなし、いずれも原告の右物件に対する占有を奪つてその利用を妨げ、更に第二の八記載のとおり同年八月三一日右物件を公売処分に付しこれを第三者に競落させ、同人をしてこれを即時取得により、しからずとするも混和加工によつていずれもその所有権を取得させるか、或いは同人において更に他人に転売することによつてその者をして即時取得させるかして、原告の所有権を喪失させ、因つてこれを侵奪したものであるから、右はいずれも違法な行為と認めることができる。

二、収税官吏の右差押及び公売処分に際しての故意過失

(一)  原告は収税官吏の右各行為は収税官吏において本件物件が原告の所有に属していることを知りながら、右物件が未だ浪速船渠工場に所在するのを幸いにしたものであると主張する。しかしながら本件全証拠によるも右事実は認め難い。特に昭和二五年七月一七日付差押以降の処分は、西税務署長において同年一月一六日付公売処分につき無効宣言的取消をなした後になされたものであるから、右無効宣言的取消の効力は暫く措き、右差押以降の処分をなした収税官吏としては右物件の所有権が入江を経て原告に移転していることを否定した見解に立つてなされたものであることはこれを推認するに十分である。

(二)  次に原告は、仮に収税官吏において前記差押及び公売処分をなすに際し本件物件が原告の所有であることを知らなかつたとしても、収税官吏においてその職務上課せられた通常の注意義務を尽したならば当然右事実を知り得たにも拘らずこれを怠り漫然浪速船渠の所有物として右各処分をなしたものであるから過失の責は免れない旨主張する。これに対し被告は仮に本件物件の全部又は一部が右処分当時原告の所有物であつたとしても収税官吏において右物件がなお浪速船渠の所有であると判断し、原告の所有であると思い及ばなかつたのは、昭和二四年一一月八日付差押及び昭和二五年一月一六日付公売各処分がいずれも無効であると解したことによるのであるが、右処分が有効であるか無効であるかの判断は極めて微妙困難なもので一見明瞭とは到底言い得ないものであるから、収税官吏において右処分を無効と判断し、右物件について浪速船渠に対する滞納処分をなしたとしても、右収税官吏に過失があつたものといえない旨述べてこれを争う。よつてこの点について判断するに、西税務署又は大阪国税局所属の収税官吏が昭和二五年一月二六日付差押以降の各処分をなすについて、同年一月一六日付公売処分につき既に売却決定がなされ、代金全部の納付が完了し、物件引渡のみ残存する状態であつた事実を、当然知りまたは知り得べかりし状況なることはこれまで説明したところより明らかであるから過失の有無の判断は前認定に係る諸事実関係の下において収税官吏が原告主張の二重差押、当初の公売処分の取消、三、四度目の差押、それらによる公売などの処分をなすに際し収税官吏としてその職務上課せられた通常の注意義務を尽せば、本件非統制物資が原告の所有に属することを認識し得たものであるが、即ちそのためには収税官吏において昭和二四年一一月八日付差押及び昭和二五年一月一六日付公売処分が非統制物資に関する限り本来取消し得べき原因(現実に取消し得るか否かは更に考慮を要するが)を有する瑕疵ある行政行為に過ぎないこと、そして本件の場合は第三者の既得権を侵害するものとして取消し得ず仮に取消したとしても右取消は無効のものであることを認識し得たものであるかどうかに係るのであるが、それは結局のところは、公売処分における所有権移転時期、管轄権を無視した差押及び公売処分の違法性は当該公売処分を無効ならしめる程度のものであるか単に取消し得るにすぎない程度のものであるか、後者であるとして既に第三者が所有権を取得した後において右違法性を理由に公売処分を取消し得るか、取消し得ないとしてもこれが取消処分を現にした時は無効かどうかの前示法律解釈が一般税務官吏に要求される程度に普遍的なものかどうかにあるが、凡そ収税官吏たるものが滞納処分を実施するに当つては、その目的物件につき既にして別に公売処分が行はれ、売却決定、代金納入も完了し、物件引渡のみ残つているにすぎない場合には、既に落札者に所有権が移転しているのではなかろうかと言うことは当然これを考慮に入れて然るべきであり、本件第二の差押以下の諸処分は少くとも本件非統制物資につき落札人えの所有権移転を知り又は知り得たとせられる場合にはこれを差控え、速に当初の落札者又はその承継人に対し物件引渡をなすのが当然であつて、疑義を存するままに、又は疑義を抱く程度の考慮をも払はず、ことを強行するのは過失であることを免れない。被告は難解な法律問題に藉口して無過失を主張する。併し収税官吏が法律上の解釈困難のため挙措に迷うならば、当該収税官吏に要求せられる程度において正しい解釈に到達すべき努力を試みるのが右の者に課せられた義務であるのに本件収税官吏が昭和二五年七月一七日、同年八月一五日付各差押当時及び同年八月三一日公売当時右正当な判断に到達すべき努力もせず、軽卒にも昭和二四年一一月八日付当初の差押処分及び昭和二五年一月一六日付公売処分を無効であるか或は取消し得べき行為で既に取消済のものであると判断し、右物件の所有権が浪速船渠に属し原告に属しないものと考えたと認めるの外ない本件では右収税官吏の過失あるを免れない。

三、以上収税官吏の原告所有の本件非統制物資に対する昭和二五年一月二六日、同年七月一七日、同年八月一五日付各差押及び同年八月三一日付公売処分はいずれも過失によつて違法に原告に損害を加えた不法行為ということができる。

第八、収税官吏の不法行為についての被告の責任について。

右不法行為をなした各収税官吏はいずれも被告の公権力の行使に当る公務員であり、同人らはその職務を行うについて過失によつて違法に原告の所有権を侵害したものであるから、被告は国家賠償法第一条第一項に則り原告に対し右不法行為によつて原告に加えた損害を賠償する責任を負担するものである。

なお被告は収税官吏が原告主張のように原告の所有権に対し不法行為を加え原告に損害を与えたとしても、原告は右物件の引渡を受けていないからその所有権を以て第三者たる被告に対抗し得ず、被告に対し損害賠償を請求し得ない旨主張する。しかしながら被告は収税官吏の本件不法行為については一種の使用者責任を負う者であつて、不法行為責任を負う者は対抗要件の欠缺を主張し得べき者ではないからかかる主張は到底是認することはできない。

第九、被告の賠償すべき損害額について。

一、まず原告は本件請求は元来本件物件の給付を請求するものなるところ、右給付を受けることが不能となつたので、本来の給付の履行に代るものとして損害賠償を請求するものであるが、かかる場合損害額として最終口頭弁論期日における本件物件の時価を請求し得べきものである旨主張する。しかしながら原告の右主張は、物の給付の請求をなす際その執行不能に備えて代償請求をなす場合の損害額算定の方法に則り、本請求をなすことに帰するのであるが、本件は不法行為に基く損害賠償請求に外ならないから原告主張の右損害額の算定は明らかにその方法において誤謬を犯しているものというべく右主張は採用することはできない。

二、次に原告は特別事情に基く損害として、収税官吏の昭和二五年八月三一日付本件物件に対する公売処分がなかつたならば原告は右物件を昭和二六年四月末日第三者に転売し且つ右日時の時価に相当する金員を確実に取得したであらう事情にあり且つ右事情は不法行為当時予見し又は予見できたものであるから、被告に対し右日時における本件物件の時価相当額の支払を請求し得べきものである旨主張する。よつてこの点について考えるに、収税官吏の不法行為は本件物件中原告の所有に帰した非統制物資についてのみ成立することは前記認定のとおりであるから、右非統制物資について原告主張事実の有無を判断すべきである。ところで前記第二の九において認定したとおり、原告は本件物件中鋼板、型鋼、棒鋼、鋼管の統制物資については昭和二五年一月二六日付差押の後である同年四月末日頃、これを昭和二六年四月末日頃までに日本鉄興に時価を以て転売する契約をした事実を認めることができるのであるが、本件非統制物資については、原告においてその所有権取得後は昭和二五年八月三一日付公売処分の前後を問はずもしその引渡を受けることができれば直ちにこれを他に転売したであろうという事実は認められるけれども右物件を昭和二六年四月末日第三者に時価を以て転売する契約をなしていたとの事実は認め難い。してみると収税官吏が原告所有の非統制物資について公売処分をなし原告の右所有権を侵奪したとしても、原告において特別事情に基く損害賠償として右昭和二六年四月末日付時価を請求することはできないものといわねばならない。よつてこの点に関する原告の主張は理由がない。

三、次に原告は通常生ずべき損害として、収税官吏の昭和二五年八月三一日付公売処分によつて原告は本件物件に対する所有権を喪失せしめられたものであるから、被告に対し右物件の同日付時価を請求する旨主張する。よつてこの点について判断するに、収税官吏の不法行為は本件物件中原告の所有に帰した非統制物資についてのみ成立するものであることは前述のとおりであるから、右非統制物資について原告の主張事実の有無を判断すべきこと前項と同様であるが、不法行為によつて所有権を滅失せしめられた者は損害賠償として右滅失時における所有権の交換価格を請求し得べきことは原告主張のとおりであるから、被告は原告に対し損害賠償として右非統制物資の昭和二五年八月三一日付価格を支払うべき義務あるものといわねばならない。そこで右非統制物資の同日付価格について考察するに、前記第二の一〇のとおり右物件中証拠によつてその価格を認定し得べきものは別表(一)のとおり、リベット及びボールト計金一、二一四、四〇〇円、非鉄金属類金四、六七五、〇〇〇円のみに止り、他の非統制物資については結局同日付価格を認定し得ないから、被告は原告に対し合計金五、八八九、四〇〇円の支払義務あることを認定できる。

四、なお被告は、仮に収税官吏の昭和二五年一月二六日以降の滞納処分が原告に対する不法行為となるにしても、原告は昭和二五年二月一四日入江から金四、〇〇〇、〇〇〇円の送金を受けこれを受領している。そうすると原告が本件物件を購入するにつき支払つた代金三、五〇〇、〇〇〇円はこれによつて返還されており、又原告が本件物件の転売を約したという日本鉄興は原告に対し何らの損害賠償をも請求していないのであるから、結局原告は本件不法行為によつて何らの損害も蒙つていない旨主張する。よつてこの点について判断するに、原告が本件不法行為によつて本件非統制物資の所有権を喪失せしめられ右不法行為時の価格相当の損害を蒙つたことは前記認定のとおりである。ところで成立に争ない甲第五号証の一、二、証人富岡芳勝の証言、原告代表者本人訊問の結果によると、入江は昭和二五年二月一四日頃原告の取引銀行である三和銀行九条支店の原告口座に金四、〇〇〇、〇〇〇円を払込み、原告に対し右は本件物件の買戻代金であるから受領するよう内容証明郵便を以て通知してきたが、原告は右金員を受取る理由なしとして口座入金を拒否してきたところ、銀行からの要望もあつたため、止むなく同月二四日入江に対し右金員は一応預るがいつでも申出があれば返還する、そして右返還の際同人との間の本件物件売買によつて原告の蒙つた損害額と対等額において相殺する旨内容証明郵便を以て通知した上同日以降入江のために右金員を保管している事実を認めることができる。してみると原告は右金員を本件物件買戻の代金として受領したものとは認め難く、ただ義務なくして入江のために右金員保管の事務を管理しているものに過ぎないものと認められるから、原告において右金員を異議を止めず受領したことを前提とする被告の主張はその余の判断をまつまでもなく採用することはできない。

第一〇、結論

以上の理由により、被告は原告に対し金五、八八九、四〇〇円及びこれに対する不法行為の日である昭和二五年八月三一日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払義務あることが明らかである。よつて原告の本訴請求中金五、八八九、四〇〇円及びこれに対する右不法行為の日の後であり訴状送達の日の翌日であることが記録上明白な昭和二五年一〇月一〇日以降右支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める部分についてはこれを正当として認容し、その余は理由がないから失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宅間達彦 常安政夫 高田政彦)

目録

一、鋼板    四八九・五六〇屯

二、型鋼    七一六・八〇〇屯

三、棒鋼     八四・八〇〇屯

四、鋼管    一四四・〇〇〇屯

五、ワイヤロープ 四六・四〇〇屯

六、木材        七二五石

七、塗料      一・四〇〇屯

八、リベツト  二〇〇・〇〇〇屯

九、ボールト   六四・四〇〇屯

一〇、鉄釘類    一・四一六屯

一一、非鉄金属  四二・五〇〇屯

一二、燃料類   七二・五〇〇屯

一三、艤装品   一九・一〇〇屯

一四、鋳造品        八個

一五、補キ         一個

一六、パツキング      各種

一七、計器        五五個

一八、弁コツク    一六、三九

一九、雑品         各種

二〇、電気用品     五二五個

以上

別表(一)(二)(三)<省略>

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